第3回は個人的にも大注目の、β細胞再生を取り上げたいと思います。
様々な治療法を勝手に整理した表の該当部分はこちら。
| 番号 | 治療法 | 実現度 | 根治度 |
| 5 | 遺伝子治療によるβ細胞再生 | ★ | ★★★ |
調べながら、どうもわかりにくいと思っていたのですが、原因は「遺伝子」という言葉。
「遺伝子」を文字通りに理解すると①「遺伝情報を子孫に伝える物質」となりますが、一方で遺伝子には、②「生存に必要な様々なたんぱく質を作り出す物質」という側面もあります。
②の文脈では、「遺伝子」という機能名ではなく、「DNA」という物質名を使ったほうが正確なのかもしれません。このあたり、詳しい方いらしたら、ぜひ教えてください。
さて、本題。T1Dの遺伝子治療に関わるのは、②「生存に必要な様々なたんぱく質を作り出す物質」としての遺伝子です。インスリンもたんぱく質で作られており、T1Dでは、インスリンを作り出すために必要な遺伝子が機能していないことになります。なので、その遺伝子がちゃんと働くように治すという治療法なのです。
さらに、この治療法には、以下の二つの異なるアプローチがあります。
(1)インスリンを作るために必要な遺伝子(インスリン遺伝子)を肝臓の細胞に導入して、インスリンを作れるようにする。
(2)体内の幹細胞(色々な細胞になる可能性のある細胞)に特殊な遺伝子を導入して、(インスリン遺伝子をもつ)β細胞に分化させる。
(1)については、インスリンを生産する遺伝子を導入するだけでは不十分で、必要な時に、必要なだけのインスリンを生産するように調整する機能を持たせなくてはなりません。これがまた難しいようなので、私としてはそうした機能も持ったβ細胞自体を再生させてしまう(2)に期待したいですね。とうことで、前置きが長くなりましたが、(2)を念頭にまとめてみました。
- 概要:体内の幹細胞(色々な細胞になる可能性のある細胞)に特殊な遺伝子を導入して、(インスリン遺伝子をもつ)β細胞に分化させる。
- メリット:T1D患者において、破壊されたβ細胞が再生されるで、完全なる根治といえるでしょう(根治度★★★)。
- デメリット:安全性を持って実現し、また(後述の)T1Dの再発を防止できるのであれば、デメリットは思い当たりません。ただ、遺伝子レベルで治してしまうという革新的な治療法だけに、技術的なハードルは相当に高そうです(実現度★)。
- コメント:マウス実験では、T1Dのマウスにこの治療法を肝臓に試し、インスリンを分泌する細胞が生じたことを確認し、血糖も改善したという研究も出てきています。その研究は2003年の発表なので、今はもっと進んでいるはずです。一方、懸念点としては、そもそもβ細胞が破壊された原因である自己免疫の異常が、T1D患者に存在し続けるのであれば、再生されたβ細胞をまた破壊し、T1Dが再発してしまうのではないかということ。T1D発生のメカニズムが解明されていないだけに、難しい問題だと思いますが、遺伝子治療の文脈ではこの問題をどうとらえているのか、研究者に話を聞いてみたいです。
(参考:日本IDDMネットワーク発行 1型糖尿病お役立ちマニュアルPART4、P 88〜93「1型糖尿病の遺伝子治療」)